毎月もらう給与明細をみると厚生年金保険料がたくさん引かれているのをみると、なんだかとても損をしたような気持ちになってしまいますよね。
厚生年金というのはサラリーマンの人が加入する公的年金制度で、老後に年金で生活するためには支払っておく必要のあるものです。
一方で、フリーターや個人事業主の方は国民年金という制度に加入していますが、中にはサラリーマンの人の厚生年金と比較してどっちが得なんだろう?と感じている方も多いかもしれません。
ここでは厚生年金と国民年金の違いについて、保険料の負担額や老後にもらえる受給額の観点から比較してみましょう。
厚生年金と国民年金の違い
サラリーマンの人が加入できる厚生年金と、個人事業主やフリーターの人が加入する国民年金には以下のような違いがあります。
国民年金 | 厚生年金 | |
加入する人 | 個人事業主やフリーター | 企業に勤めている人 |
保険料 | 安い | 高い |
老後の受給額 | 月額6万5000円程度 | 月額22万円程度(平均額) |
遺族年金 | 条件厳しい | 手厚い |
障害年金 | 支給2級まで | 3級でも支給 |
厚生年金の受給額や保険料はその人のお給料の金額によって違うのですが、受給額は平均で22万円程度(国民年金は満額受給で6万5000円程度)です。
厚生年金の保険料はお給料の9%(本人負担分。国民年金の保険料は1万6000円ほど)ですので、平均的には上の表のようになります。
厚生年金と国民年金の扶養家族
厚生年金に加入している人の場合、養っている家族を「扶養に入れること」ができます。
扶養に入れるというのは簡単にいうと家族の年金保険料を免除してもらうことができるということで、収入額が年間130万円未満、生計を一緒にしているなどの条件を満たす親族であることなどが条件になります(主に専業主婦の配偶者や未成年の子を想定しています)
個人事業主は家族を扶養に入れることはできない
国民年金に加入している個人事業主の場合、家族を扶養に入れるということができないため、奥さんが専業主婦であったとしても20歳以上の場合には自分で国民年金の保険料を支払わなくてはなりません(20歳以上の子供の場合でも同様です)
スポンサーリンク
厚生年金の保険料は自分1人が加入していても、家族が扶養に入っていても負担額は同じですので、家族が多い人は国民年金よりも厚生年金の方がメリットは大きいということがいえますね。
厚生年金と国民年金の切り替え
これまで国民年金に加入していた人が今後は厚生年金に加入することになった場合や、これまで厚生年金に加入していたけれど今後は国民年金に加入するという場合には、厚生年金と国民年金の間で切り替えの手続きをしなくてはなりません。
前者は企業に正社員として勤めることになった場合などが、後者はサラリーマンから独立したり、専業主婦になった場合などが該当します。
厚生年金の切り替え手続きは勤務先がやってくれる
厚生年金の新規加入や脱退の手続きについては勤務先の企業でやってもらうことができますので、基本的にあなた自身がやることはありません(勤務先に基礎年金番号を知らせたり、健康保険の被保険者証を返したりするぐらいです)
一方で、今後は国民年金に加入するという場合には自分で市役所に行って国民年金の加入手続きをしなくてはなりません(正式には「国民年金第1号の資格取得の手続き」といいます)
市役所に年金手帳等をもって窓口に行けば書類の書き方などは教えてもらえますので指示に従うようにしましょう。
結婚して専業主婦になる場合は?
なお、これまで厚生年金に加入していたけれど結婚したので脱退して今後は専業主婦になるという人の場合は、夫がサラリーマンであれば扶養に入ることができます。
その場合、切り替えの手続きは夫の勤務先の企業でやってもらうことができますので、専業主婦となる人自身がやるべき手続きは特にありません。
国民年金から厚生年金への切り替えで未納分はどうなる?
失業中に国民年金保険料は未納状態になっていたけれど、就職が決まったので今後は厚生年金に加入するという人の場合、未納となっている保険料の扱いがどうなるのか?という問題が生じます。
結論から言うと、未納分については支払いをしない限りはずっと未納ということになります。
スポンサーリンク
厚生年金に加入した以降は毎月のお給料から厚生年金保険料を支払っていくことになりますが、過去の未納分については勤務先では関知していませんので自分で追納の手続きをしない限りはずっと未納という扱いになってしまうのです。
未納のまま放置していると老後に受け取れる老齢基礎年金の金額が少なくなってしまいますので注意しておきましょう。
なお、未納分があったとしても厚生年金に加入できないというようなことはありません。
厚生年金加入者の夫と、国民年金加入者の妻
結婚したことで妻が専業主婦になるというケースは多いですよね。
その場合、妻がもともとOLなどのかたちで企業に勤めていて厚生年金に加入していた場合は、妻は厚生年金からは脱退することになります(厚生年金脱退の手続きは勤務先の企業がやってくれます)
その後、妻は夫の厚生年金の扶養に入ると国民年金保険料の支払いを免除してもらうことが可能になります。
その際には夫が勤めている企業で妻を扶養に入れる手続きをしてもらう必要がありますから、必ず勤務先に結婚したことを伝えるようにしましょう。
就職したときの切り替え
これまで個人事業主であった人や、専業主婦であった人が企業に正社員やフルタイムのパートで勤めるようになったという場合には、厚生年金に加入することになります(保険料はお給料から天引きの形で支払います)
そうなるとこれまで加入していた国民年金からは抜けることになりますが、その際には国民年金から厚生年金への切り替えの手続きが必要になります(国民年金側の手続きは特に必要ありません)
年金手帳を準備しておこう
切り替えは入社する勤務先でやってもらうことができますが、基礎年金番号などを伝える必要がありますから年金手帳の紛失がないかどうかは事前にチェックしておきましょう。
年金手帳を紛失してしまった場合には年金事務所で再発行してもらうことも可能です。
年払いしていた国民年金の保険料はどうなる?
国民年金の保険料は、毎年4月末までに年払いすると負担額が少しだけ小さくなります(2年分の前払いもできます)
年払いした分が該当する期間中に企業に就職したような場合には「支払ってしまった国民年金の保険料がむだになってしまうのでは?」と思われる方もおられるかもしれませんが、心配ありません。
二重で払ってしまった分は還付される
このような場合には保険料を二重で支払うことにならないよう、厚生年金に加入した月以降の保険料については還付されることになっているのです。
企業側で厚生年金への加入手続きが完了すれば、数ヶ月ほどで年金事務所で還付の請求書が送られてくると思いますので、還付金の振込先口座などを記入して返送しましょう。
通常1ヶ月程度で還付金が振り込まれます。
会社をやめて独立した場合
スポンサーリンク
サラリーマンだった人が企業を退職し、今後は独立して個人事業主としてやっていくという場合、厚生年金からは脱退して国民年金に加入することになります。
その際、厚生年金からの脱退手続きは元の勤務先企業がやってくれますが、国民年金に加入するための手続きは自分でやらなくてはならないので注意が必要です。
種別変更の手続きが必要
これを年金の種別変更と言いますが、国民年金に加入するためには市区町村役場で退職から14日以内に手続きをする必要があります(これを過ぎても基本的にペナルティはありませんが、保険料の未納になるとその分老後の受給額が減ります)
企業を退職したら離職票という書類を交付してもらうことができますので、年金手帳や印鑑、身分証明書と一緒に市役所に持参して手続きをするようにしましょう(離職票は失業保険をもらうためにも必要な書類です)
国民年金の保険料は放置していても免除されることはありませんので数ヶ月分をまとめて請求されるということもありますから注意しましょう。
厚生年金と国民年金の継続加入について
サラリーマンの人は厚生年金と健康保険に加入することになりますが、健康保険については退職後にも任意継続という方法があるものの、厚生年金については任意継続で加入し続けるということはできません。
サラリーマンを辞めると、国民年金に加入するか、配偶者の被扶養者となるかの選択肢しかありませんので注意しましょう。
なお、個人事業主となった後に事業を法人化すれば経営者であっても厚生年金に加入することができますから、老後の受給額が心配という方は検討してみると良いですよ(次で解説します)
経営者が選択するべき年金制度は?
個人事業主として活動している経営者の人は、国民年金に加入することになります。
厚生年金は「企業に雇われている人の年金制度」なので、自分で事業を行なっている人は加入することができないのです。
事業主が厚生年金に加入する方法
ただ、厚生年金の方が老後に受け取れるお金が多くなるのが普通なので、経営者の人も厚生年金に加入したいと思うのが普通ですよね。
その場合には個人事業主として行なっている事業を法人化するのが良いです。
事業を法人化し、経営者自身は「法人の役員」として設立した法人に雇われている形にすれば厚生年金に加入することが可能になるというわけですね。
事業を法人化するときの注意点
事業を法人化すると厚生年金に加入することが可能になりますが、注意点もあります。
それは、法人の役員になると経営者自身のプライベートな出費と法人の経費とを厳密にわけなくてはならなくなる点です。
これは法人税の計算上やむを得ないことで、法人化した後は経営者の生活費は「役員報酬」として毎月固定の金額でしか引き出すことになります。
役員報酬の変更は年に1回だけ可能
さらに役員報酬の金額は毎年1回しか変更することができませんので、事業の状態をしっかりと把握して役員報酬の金額を決めないと、事業の赤字、黒字に影響が出てしまうことになります(当然、税金の金額にも影響します)
役員報酬の金額は1年に1回しか変更できないので、それに合わせて厚生年金の金額も1年間は一定額を支払い続けることになる点も理解しておきましょう(厚生年金の保険料は「役員報酬×厚生年金の保険料率」で算定します)
経営者は、厚生年金以外の老後資金は必要?
法人の役員になると厚生年金に加入することができるようになりますが、経営者として活動している人の場合、老後に安定的に生活していくための資金を現役のときにしっかりと準備しておく必要性があります。
簡単にいうと、厚生年金以外の老後資金についても準備をしておく必要があるということですね。
サラリーマンの人であればある程度の規模の会社で定年まで勤め上げれば退職金も支給されるため、老後の資金にはある程度余裕が見込めます。
経営者の老後資金準備
しかし、経営者の場合には退職金などは事業の状況によっては支給することができないことも想定しておく必要があるのです。
経営者の人が老後の資金を考えるときに利用できる方法としては以下のようなものがあります。
①小規模企業共済
まず、中小企業経営者だけが利用することのできる極めて有利な制度として「小規模企業共済」があります。
これはいわば「経営者のための退職金制度」のようなもので、一定期間保険料を支払い続けることで、法人の役員を退職した時や、事業を廃業したときに「積み立てた保険料+割り増しの利息」という形で退職金を受け取れる制度です。
さらに、現役時代に積み立てる保険料については、全額を所得控除(所得の金額から差し引きしてもらえる金額のこと)になりますので、税金対策にもなるという優れものです。
小規模企業共済には中小企業経営者であればほぼ誰でも加入することができますので、老後の資金が不安…という経営者の方はぜひ加入を検討してみると良いでしょう。
②民間生命保険会社の保険
厚生年金などの公的な年金制度の他に、民間の生命保険会社(明治安田生命や日本生命など)の保険に加入することも検討してみましょう。
特に、事業を法人化した場合、経営者を被保険者とする生命保険に法人名義で加入した場合、保険料は法人の経費とすることができます。
保険会社は税理士などと提携して保険の提案を行なっていますので、顧問の税理士がいる経営者の方は相談してみると良いですよ。
まとめ
以上、厚生年金と国民年金の違いについて、基本的な知識を解説させていただきました。
厚生年金と国民年金は保険料支払いや受給額計算の仕組みが異なりますが、老後のことを考えると基本的には厚生年金に加入した方が手厚い保障を受けられると言えます。
個人事業主の方は法人化して厚生年金に加入することを検討するとともに、別の老後資金準備の方法も検討してみてください。